2014年9月18日木曜日

My Recommendations No.18 「医療詐欺―『先端医療』と『新薬』は、まず疑うのが正しい」

9/10のブログで、HBS総合診療歯科学分野教授 河野文昭先生のご推薦図書1冊目「論文捏造」をご紹介しましたが、今日はその2冊目、
「医療詐欺―『先端医療』と『新薬』は、まず疑うのが正しい」(上 昌広 / 講談社)
が入荷されましたのでお知らせします。



さっそく、河野先生が寄せてくださった書評をご紹介します。


 救急車のたらい回し,新薬承認の遅延,混合診療問題,医師不足,医療の地域格差など,日本の医療は多くの問題を抱えている。著者は,東大医科学研究所の教授で,医療を供給する立場から日本の医療の構造的な問題を提起している。本書は,読みやすく,提示されている内容は医療人として納得する部分も多いが,やや独善的な部分もあるように感じる。
 「医療詐欺」と非常にセンセーショナルなタイトルになっているが,著者は決して「先端医療」や「新薬」を否定しているものではない。厚生労働省,日本医師会,大学教授などが原子力ムラと同じように医療ムラを構成し,持ちつ持たれつの関係を築き,医療界を自分たちの利益を守るためにコントロールしていると述べている。
 製薬会社と御用学者,御用マスコミとの癒着や薬価の価格統制,ジェネリック薬品が普及しない理由など,医療界を巡る様々な問題を掘り下げ,現状を著者の考えから分析している。また,東北地方に新しい医学部が新設されることがニュースになったが,今よりもこれからが医師不足が深刻になることを著者は予想しており,その原因として,医師数は十分に足りていても高齢医師の増加によるアクティビティーの低下が新たな医師不足を引き起こす可能性や,欧米に比べて看護師等の数が少ないなど,医療職のオーバーワークと使命感による頑張りによって成り立っている現在の医療の危うさを示している。
 これらの医療崩壊の解決策の一つとして,著者は国や日本医師会が批判する混合診療の導入をあげている。混合診療とは,保険診療と専門性の高い自由診療を組み合わせ,後者を患者さんが負担する方法であるが,現在,日本ではこの方法は認められていない。航空業界のビジネスクラスの登場が航空業界の競争を活発にしたように,混合診療の制度を柔軟に導入することにより,医師間の競争を促し,質が高く,そして安全な医療が提供できるようになると述べている。
  医療崩壊の進む日本の医療を再生するヒントが本書には書かれているかもしれない。


 本書は今年7月に出版された比較的新しい図書なので、新聞などで見かけて気になっていたのに読みそびれている方は、ぜひこの機会に読んでみてください。


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